特大


ア・ラ・カルト

ホーム > ア・ラ・カルト > 福岡製紙 高橋禮久社長に聞く

福岡製紙 高橋禮久社長に聞く 1982-10-25(第219号)

高橋禮久社長高橋禮久社長

本紙では、このほど、福岡製紙(株)本社(福岡市)で同社高橋禮久社長とのインタビューを行ない、最近の業界情勢、段ボール原紙の動向など、主として総合的な観点からのお話をうかがった。福岡製紙高橋禮久社長は、いうまでもなく本州製紙の段ボール加工事業部門を一貫して手掛け、今日の本州段ボール工業(株)をはじめとする本州グループの生みの親、育ての親ともなった人。昨年4月、本州製紙常務から福岡製紙社長に就任、以来一年半、本拠を福岡に移して、松下電産グループから本州グループに変ったばかりの福岡製紙の采配を振い、同時に本州グループの中心人物として業界問題にも深くタッチ、"伝説的"な氏の八面六臂の活躍ぶりは何も変っていない様子であった。会社では、毎朝8時前に執務開始、月の半分は全国の事業所ほかを飛び回り、連日深夜まで土曜も日曜もないハードスケジュール。その合い間を割いていただいてのインタビューであった。

<問い>こちらに就任されてから、もう一年半ですが、落ち着かれたというか、そういう意味ではいかがですか。

<高橋>いや、何かエンドレスな感じですよね、ボク個人の実感としては。ある世界から別の世界に来て、だから、それが馴染むまでに、ある意味で時間が必要で、というような感じでは全然なくて、赤の他人のところに来たということでもないし、まあ、いままでやっている仕事の延長版の上に乗っている感じです。

その中で、仕事の中身というのが「福岡製紙の社長」という立場で、そこに非常にウェートが高く掛かって来たということはあるけれども、やっている仕事の方向とでもいいますか(笑)、そういう面で、新しく異質なものをやらざるを得ないというような、そんな実感は何もないんです。

<問い>同じことを、場所を変えてといいますか、要するに東京と九州との往復がはげしくなったということですか(笑)。

<高橋>という風にいうと、社内の人から「アンタ、どこの社長なんだ、ヨソのことなんか一切無縁で、福岡のことだけ考えてほしい、社長なんだから」という意見が出ても困るけれども、ウチ(本州グループ)の仕事は、みんなラップしているんでね、これは、ほとんどハミ出るところは何もないんです。福岡製紙の社長としてやっている行為が、それはウチは各事業部があって、各事業部長が責任を持って仕事をしているし、組織があって、専務もいれば常務もいる、営業本部長もいれば資材部長もいるのだから(笑)、私が直接、それを自分で担当してやるという性質のものでもないし、会社の一つの大きな舵取りとか、方向づけとか、そういう私の役目でいうと、まあ、みんな、いままでやってきたことの延長版をやっているのと同じ感じ、という意味なんです。

個々の具体的な現象でも、どこそこのお客に福岡の社長として行ってくれとか、冠婚葬祭は福岡の社長として出てくれとか(笑)、こういうことは、では本州にいて、そういうところに行かないかと言えば行ってるしね、いままでだって(笑)。だから、実感としては、行動面で変った実感がないんです。ただ、心情面では、やっぱり福岡製紙の社長で、あくまで福岡製紙の社長としての責任というものは自覚せざるを得ないと思うけれども、その自覚的な現象と行動的な現象とが矛盾するわけでもないし、だから、今までと全く異質の世界という感じは全然ないんですね。

<問い>私は、20年以上もご指導いただいているわけですが、最初にお目に掛った頃は確か課長代理ぐらいじゃなかったかと思うんですが(笑)、それ以来、位(くらい)が上られても何にも変わらない、いつもザックバランで、気どらない方だということで、何よりご尊敬申し上げているのですが、こうしてお話をうかがっていると、福岡の社長になられても何も変わられませんね(笑)。

<高橋>変わりませんね(笑)、人間が変わらないというのは、進歩してない証拠なんでしょうから(笑)。

<問い>ところで、福岡製紙の代表社長になられて、やはり九州という地域の問題にも、以前よりもっと深い関わり合いを持たれるようになったと存じますが、九州が安定を保っている秘密とか、背景とかについてはいかがですか。

<高橋>うまく言えませんが、確かに九州はほかの市場に比べて10円以上の差があります。これはなぜだろうかと胸に手を当てて考えてみても、取り立てて特別なノウハウとか、秘伝とかいうものがあるわけでは決してないと思うのですけれども、北海道と並んで、第一にはやはりローカルな、まとまりやすい地勢的な要素ですね。

5社しかない北海道が象徴的な例ですけど、一つの島で、まあ山口県も入っているけれど、激戦地からは遠いということ、それから過当競争体質はそれぞれにあるけれども、東京や、名古屋や、大阪に比べたら同業者の数が少ないことです。地域も狭いし、人口密度的な企業密度でいったら、別に計算したことはないけれど、東京・名古屋・大阪と似たようなものだと思いますが、全体の数が少ないこと、つまり何百社ではなくて、せいぜい30社ぐらいですから、そういうことが比較的意志の疏通が図り易いとか、または共通の場の認識というものが、これは取れない場合は逆に全く収拾がつかなくなるにしても、取れた場合には、それが団結というのか、信頼というのか知らんけれども、数が少ないほど取りやすいというのが事実でしょうね。

たとえば、名古屋でよく聞く言葉ですが、名古屋が一生懸命努力して、業界の秩序を作っても、隣の部落からの越境組に荒らされたら何にもならないとか、東北あたりでいまよく言われるのもそれで、かつては、東北六県というのは地域性というのを持って、地域差別性を確立していたけれども、いまはもう勿来の関も、白河の関もなくなっちゃった(笑)、いわゆる北関東が悪ければ、すぐ、旬日を出ずして、そのままの市況が反映してしまう、地域性というのが全くなくなったといわれますけれど、あれは地続きだからであって、あるいは、かつて新潟が、もう本当にボクは昔を知ってますが、新潟を知っている人間からいうと、新潟ほど秩序の保たれた地域性の高い市場はなかったわけで、東京に比べると、高いときでも安いときでも10円ぐらいの開きがあったんです。

それがつい数年前から、名にしおう北関東よりもっと下落する現象を起しました。これには同業者の数が急に増えたとか、いわゆる設備過剰だとかいう諸々の問題もあるけれども、地続きの市場というやつね、これも一つの要素じゃないかという感じがするんです。

昔だったら、海越え、山越え行かなければならなかった新潟に、いまはひょいと行ける。いい例が長野の南信地区ですね。かつては「長野県の南信・中信・北信」だったんです。だから、新潟県はひとつの地域性を確保できました。ところが、中央高速道が出来ちゃって、岐阜や愛知から飯田に行くのは、わずか1時間か1時間半で行っちゃう。昔は1日がかりでないと行けなかった市場がです。ところが、同じ長野県で、いま北信なり中信から南信の飯田に行くのに、3時間も5時間もかかる。一体、長野じゃなくて、いわゆる行政区画は長野県飯田であっても、経済地図でいったら、あれは岐阜県飯田か愛知県飯田であって、長野県飯田ではない。むしろ同じ長野の北信よりは愛知や岐阜の方が近い時間的距離になったということが、新潟あたりにも言えるんじゃないかなと思うんです。

まあ、道路網の発達が、経済地図その他の、そういう変化をもたらしたんじゃないかという感じがしますけれども、そういうものの波及が、まだ九州や北海道にはないということですね。越境組という言葉は適切ではないけれども、よそから来るにはまだ遠いところだ、だから地域だけで固まりやすい地勢学上の利点があるということは言えるでしょう。

ですから、密度からいったら、各地区とそれほど差のない設備密度かも知らんけれども、数が少ないということは、調和が図りやすいとか、相互の信頼関係のベースがもし保てることが可能なら、これも数の多いより少ない方がまとまりやすいとか、そういう背景が地理上あることが一番大きい理由じゃないかと思うんです。

もう一つは、段ボールというのは、紙との関連が非常に切っても切れない関係があるんで、関東平野とか、大阪というのは製紙メーカーもいっぱいあるし、東京の製紙メーカーも大阪に売っている、北海道からも来ている、それから外国からも入ってくる、名古屋だったら両方の市場に売るというような、こんどは供給側のソースというのが数も多いし、複雑、かつ流動性もある。ところが、九州の場合には、紙がよっぽど余らない限り、北海道や東京から原紙を持って来る人は誰もいないですわ(笑)、運賃かかって、仕様がないですから。

だから九州は、地場で原紙を調達することに最大のウェイトがある市場であって、まあ足らずまいが若干、大阪あたりから来ることはあっても、少くとも富士や関東からは来ません。ある意味ではそれが不利か、有利かという点で意見が分かれるところだけれど、ともかく供給ソースが非常に限定されているんですね。

まあ、Cダッシュだ、Kツーダッシュだ、輸入紙だというような、それがある意味では非常に市況混乱の原因になるような、市況が安いから安い紙を探さなければならんという形で一生懸命安い紙探しをする、あるいは輸入紙が入ってきたら、すぐそれと国内紙との比較をしなければ、経営的に非常に経営判断が難しいというような市場と違って、九州の場合は、もう与えられた紙というのがほぼ固定化、限定化されているんです。勿論、四国からも大阪からも入るし、量的にもかなりの量だけれども、何というか、これも、それぞれの分野がもう決まっているというんですか、安定した供給地図があるんで、紙が安定しているということが、それをベースにした段ボール会社の経営でも、後を向いて値切るという要素が比較的少ないという結果になります。

紙の値段なんていうのは、全国同一ですから、東京で買おうと、九州で買おうと、値段は同じかも知れんけれども、複雑多岐な色んな銘柄が、輸入紙まで含めてまるでごちゃまぜの五目飯のような状態ではなくて、ここに入る紙というのは、銘柄的にも、ほぼもう数種類であって、これが安定的に供給される市場を形成している。ですから、後を向いて紙を値切る意識を、作為、無作為ではなくて、余り持たないクセがついているということ、良い言葉でいえばバックグラウンドが安定している、悪い言葉でいえば、安いもの探しをしても探せないということがあって、だから安い紙を探して安く売ろうとか、競争して安く売るには安い紙を探さなければ売れないな、という感覚が業界的に非常に薄いということを私は痛切に感じています。

九州の段ボール屋さんが、東京の話を聞くと、東京はいいなあ、オレのところはちっとも安い紙が買えないんだ、台湾・韓国の紙でも買えば、もっと安くてシェアを拡大できるのにと思うことがあるかも知れんし、そのことは現象的には一時は安い紙でシェア拡大の道具に使うとか、あるいはそれでひとと同じ値段で売って安さを内部に留保して収益をよくするというのは、瞬間現象的にはあるにしても、長期的にみれば、やはり市況混乱の原因にはなっても、決していいことではないと言えるんで、やはり紙が安定しているということは、段ボール業界の安定にもかなり大きい寄与すること、そういう選択の余地のないことに、むしろ市況安定の、隠れた非常に大きな要素があるんじゃないかと思うんです。

北海道が安定している、安定しているといわれるのも、離れ島で数が5社しかないということが一番大きい理由かも知れないけれども、もう一つはやっぱりバックグラウンドの紙が自由選択権がほとんどない、あてがい扶持で、それでしか成り立たない。それじゃ、それをベースにして経営を立てなければならないとなると、安い紙で安く売ろうという動機づけがないわけです。

この辺が、一面からみると、安い紙が買えなくて口惜しい、もっと安い紙が買えればもっと儲かるのにとか、もっと安く売ってシェアを伸ばせるのにという立場からいえば、非常に不利な立場のように思う人もいるかも知れないけれど、それがまた業界の安定の根源じゃないかという目から見たら、安定供給ソースの安定度というのが、非常に業界の秩序にはプラスになっていると思うのです。

こんなことをいうと、あいつは紙屋の出だからという人がいるかも知れないけれども、ボクは、ある意味では、いまの段ボール市況の混乱には、直接原因ではなく間接原因かも知れないが、紙の選択が自由で、安い紙のあることが、悪循環で、あさったときに、必ずその紙が供給されるという相乗効果の悪循環が、やはり市場混乱の一つの原因ではないかと思うのです。

そういう要素がない市場というのは、良いにつけ、悪いにつけ、安定性は高いし、その辺が九州市場の特徴ではないでしょうか。

<問い>九州では、メーカーがまた、みな本州グループという状況ですが。

<高橋>そうね、本州グループという言葉を使うと、これはそうでない人たちとの関係の位置でトガメになる危険もあることで、その点は充分考慮していただきたいのですが、九州の段ボール原紙メーカーは全部が本州グループです。それに大王さんや摂津さんなどが来ているという状況です。これがもし、九州の製紙メーカー同士でしのぎをけずって喧嘩する同士だったら、安売り競争がこの地域内でも起こるかも知れないけれど、同じ本州グループ同士ですから、そんなバカなことは基本的にはないです。

この辺も、ある意味では、構造改善事業というのはこんなことかなと思うくらいに、安定ソースの安定度が、よそから来ない安定度と、現地の供給側がお互いに意思の疎通を図り合えることの両面で確保されて、これは段ボールメーカーにとっては、あてがい扶持的でちょっと口惜しいことかも知れないが、、しかし業界を大きいマスでとらえ、客観的にとらえて、だから安定しているんじゃないかという要素にもつながっているんじゃないかと思います。

<問い>中段工につづいて、東段工でも調整規程が実施されて、最近では、これまでと違った何か一つの大きな潮流の変化のようなものが感じられています。まず当面は、市況に歯止めをかけてという順序でしょうが。

<高橋>止まると思いますよ。まあ、過去1年ぐらい、いろいろあって、ここまて来たわけですが、調整規程の適用というのは、物心両面の意味があると思うのです。確かに建前論とか、理論的に言うと、生産制限をして、新増設を禁止して需給のバランスをとる。だから、調整規程が認可になれば、市況の安定に寄与すると、こういう理論的世界からいったらその通りかも知らんけれども、では名古屋が1.5%の対前年生産減ではね、全く需給バランスがとれるスジではないです。

ところが、調整規程の適用を受けて以来というものは、中部地区では東西に比べて非常に市況の安定が目立ってきたというその要素は、需給バランスがとれたということではなくて、たとえ1.5でも、それによってお互いが公けに相談が出来るようになったということが、いままではそれが公けには出来なかったために、いくらほえても叫んでも、疑心暗鬼というのがどうしても拭い去れなかったのです。

これが市況混乱の一番大きい原因なんで、、いわゆる業界の信頼とか協調とかいうものは、本当にみんなが安心して相談ができなければ協調はできませんよ。これは法の"保護"ですね、一種の保護のもとに、安心してお互いが話し合う場が出来たというのが、むしろその調整規程の一番大きい成果であって、1.5%の率のカットというもの、それによる実益よりも、相互の不信を排除できたことの方がはるかに大きいメリットだと思います。

こういうことが、名古屋で既に実績として出ていますから、それと同じことが東段工管内でも、名古屋流にいけば秩序を回復するんではないかと私は思います。それに、たまたま暴落した中芯が上ってきましたので、従来のようなことをやっていたら、いまでさえ大変なのに、これで紙が上ったら、上った分だけ製品価格に転嫁できれば問題ないけれども、こう軟弱市況で外的な環境が悪いときに、例えば原紙の全銘柄が上ったらそうはいっていられないので、不況であろうと、お客が何といおうと、自分の会社がつぶれちゃうから、値上げというものが経営の生死をかけてやらなければならない命題として浮かび上ってきますけれども、全部じゃなくて、中芯というただ1銘柄だけが上ったからといって、それだけの理由では上げられないと思うし、いまの漸落市況の歯どめには効かんと思うのです。

たまたま調整規程の適用というのが確立したことと、段ボール業界にとっては、そういうように製品価格に転嫁できない時期に上げられるということは痛恨事だし、まことにもって辛い話だけれど、市況の歯どめなり反転のためには、非常に効果がある、といっても、これ以上下げたら大変なことですよね(笑)、誰でもそう思うんだから、値下がりはこれで止まるでしょう。

私は、いままでの環境が手のひらを返したように変るんじゃないかなという願望を、期待を込めて感じているんですが、名古屋が8月から調整規程の適用を受けてから完全に潮の目が変ったというんですか、業界の信頼が呼び戻されたという実績からみると、それよりはるかに業界秩序が出来上っていなかったし、過当競争体質がはげしかった東段工管内は、被害もそれだけデカかったんだから、やはり、それに対する自重、自戒というものは、「陰の極の陽」というんですか、谷が深ければ山も高いというようなですね、いわゆる業界の秩序づくりには、より拍車がかかるんじゃないかと、そういう期待を込めた見通しを私は持っているんです。