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得能正照自叙伝「発明街道」

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1992-11-30【連載第9回】(平成4年)

ボトムプリントか、トッププリントか

−−そのあと、フレキソフォルダーグルアの時代に入ってきて、例えばカウンターエジェクタだとか、色んな新しい問題が出てきたわけですが、その辺についてはいかがでしたか。

それはもう、いっぱいありました。カウンターエジェクタの枚数精度だとか、グルアにとび込むときの問題とか、まあ、S&Sのグルアの場合だと、大きなスパイラルなネジで、とび込んではこうやっていましたが、それを、ネジを倍にしたりして、上のピッチを余分に上げて、カウントが正確に出せるようにしたり、それはマイナーのチェンジですけど、そういうのは、見ていてみんなで考えて、当時はそういうやり方、提案制度でやっていました。

−−レンゴーさんは、あの頃はS&Sのグルアが多かったですね。

要するに、ボトムプリントか、トッププリントかという問題になったわけです。当時、ウチはS&Sばかりで、ボトムプリントだけだったんです。ボトムに印刷して、フラップをこう上に向けて折る方式でした。ところが、三菱がトッププリントで出て来ました。表に印刷して下に折る方式です。

いまでも、そのボトムプリントとトッププリントの二つが主流になっているわけですが、三菱が出て来たので、ボトムプリントがいいのか、トッププリントがいいのかという議論になりました。トッププリントは、三菱が進めてきたんです。
「得能さん、三菱方式のトッププリントを入れてくれ」ということで、トッププリントだと印刷面を汚さないし、上から印刷面が見えて、管理ができると言うんです。だけど、上で印刷するから、インキの漏れなんかがあると、シートの上を汚すしね。ボトムプリントは下ですから、あまり汚れないけど、トッププリントは上に紙粉だの何だの、物が落ちると載っちゃうから、その二つの方式の善し悪しは、いまでも議論がつづけられているわけです。

だけど、私がトッププリントにするとか、ボトムプリントにするとか、独断で決めるわけにいきませんから、仕様が無いんで、それじゃあ清水工場でテストしようじゃないか、みんな、どうやと言ったら、それでいいというんで、清水工場にボトムプリントのS&Sのフレキソフォルダーグルアを一台、それからトッププリントの三菱のフレキソフォルダーグルアを一台と、こう並べて二台入れたわけです。競争せい(笑)いうて。
どっちがいいかの判断は、現場に任せようとしたんです。どっちが作業性がいいか、どっちがやりいいかどうか、そういうように清水工場でテストさせたんです。

−−そういうことだったんですか。

それで、何カ月かして、「どっちがいいか」と聞いたわけです。主流のマシンを決めなければならないですから。そしたら、清水の連中みんなで打ち合わせした結果ですが、まあ、それは機械の出来も悪かったんです、S&Sのは。アニロックスロールのドクターの刃合わせがうまくいかないとか、しゅう動してないからスジが出るとか、色んな印刷上の問題があったと思うんです。それで結局、トッププリントの三菱の機械の方がいいという清水工場の結論だったわけです。それじゃあ、三菱を入れいということで、三菱にダーッと行ったんです。

−−そういうことだったんですか。

両社で競争させたんです。片やS&S-伊藤忠でしょう、片や三菱で。結局は、三菱にぜんぶ行ったんです。

−−むかし、私の記憶では、レンゴーさんはS&Sの機械がすごく多かったのに、ある時点からパタッと止まって、S&Sの勢いがなくなったなあと、そんな感じがしていましたが、そういうことだったんですか。

結局、印刷ユニットの問題ですね。精度とか、やはり三菱の作る機械は、日本人向きに細かいところまで気を使って作っているわけです。S&Sの機械というのは、アメリカの、字が読めればいいという段ボール箱の印刷なんだといった感覚で機械をデザインするから、日本人に合わないんです。

−−段ボールは「印刷」ではなくて「スタンプ」なんだという説明を聞いたことがありますが。

それは、いまでも言えると思うんです、あらゆる機械についてです。
自動車についてもそうだし、だから、アメリカの車を、日本人はなかなか買わないですね。アメリカでは自動車は下駄がわりだから、動けばいいという向こうの感覚だったんでしょう。ところが、日本人には、ある程度財産だし、一生懸命磨くし(笑)、長持ちさせようとしますよね、便利よく作っているし。そういう点では、段ボール機械もそうだと思うんです。

−−少し話が飛躍するんですが、結果的にはS&Sという会社そのものが倒産して、なくなってしまったわけで、やはり、それもそういうことの積み重ねですか。

まあ、企業がおかしくなるのは、開発力だと思います。だから別次元の話ではないでしょうか。
私の個人的な感覚ですけれど、S&Sの創業社長は偉かったと思うんですよ。その息子さんは、有名なMIT(マサチューセッツ工科大字)を出られて、コンピュータ屋さんになったんです。電子工学を専攻されて、S&Sの跡目を継ごうとしておられたんですが、あまりにコンピュータに走り過ぎて、機械の開発が追っ付かないわけです。それでおかしくなったというんですね。
オヤジさんというのは、私も仲良くしてました。初めてS&Sのコルゲータを入れたとき、彼が豊橋に挨拶に見えて、前にお話したDDSのカッターの話をしたんです。瞬時に変わるやつを作れと言ったら、そんなものは出来んと言っていました。

−−副社長のミスター・リーマンは、日本によく来て、講演したりなんかもしましたけれど、社長はあまり来なかったんじゃないですか。

そう、滅多に来なかったです。レンゴーで初めてS&Sの機械を豊橋に買ったから、それで試運転直後に来たわけで、表敬訪問かなんかだったんです。

−−先ほどのお話ですが、トッププリントがいいのか、ボトムプリントがいいのかという、その論争の決着はいまだについていないようですけど、得能さんのお考えではどうなんでしょうか。

私は、いまではどちらでもいいと思います。機械は、安い方がいいです(笑)。

−−構造的にはどうなんでしょうか。

私は、汚れたものは下にという考え方からいくと、ボトムプリントの方かなと思います。だけど、こんどは汚れますよね、いろんな、触わるところが多いですから。それから品質の管理という面からいってもそうですけれど、品質管理というのは、スピードが速くて、こう抜き取ってみないと、検査できません。トッププリントなら、上から印刷面が見えますがね。
ですから、その地域、地域、エリアによって違うと思うんです。ヨーロッパの方はボトムプリントが多いです。アメリカは半々ですね。日本も半々じゃないでしょうか。それに近いと思います。

−−機械メーカーの方も、ボトムも作れば、トッププリントも作るというようになっているわけでしょう。

まあ、それはお客さんの好みです。だから、紙粉の多い原紙を使っているところは、ボトムが多いですね、ヨーロッパがそうです。紙質にもよります。ただ、それにしても、どちらとも言えません、私はどっちかというとボトムが好きですけれどね。

−−段ボール製函機にも色んな種類があるわけですが、少し大きく、製函機械というのは、これからどういう方向に向かって技術開発が進んでいくのかとか、どうあるべきかとか、そういう点についてはいかがでしょうか。

印刷ユニットの方は、どっちかというと、イモ版みたいなものですから、特に問題ないと思うんですけれど、まあ樹脂版の問題とか、いろいろありますね。これがやはり押さえて印刷する方式ですから、オフセット方式になる可能性はあると思います。オフセット方式の完全転写の問題です。
要するに、ゴム版に何かで印刷しておいて、それを段ボールの方にくっつけていく、いわゆるオフセットです。そうすると、非常にシャープないい印刷ができるという可能性はあると思うんです。
その樹脂版というか、版が、東レなんかで開発している色んな新しい材料がありますよね。新素材で、100%インキが転移する材料なんかもあるわけですから。いま、もう現実にはいっぱい使っていますよ、バーコード印刷だとか、ゴルフボールの凹んだところへも印刷するとか、そういうものを使っての印刷機というのは、今後、印刷の精度、美粧化に利用されるということがあります。

−−それは、例えばフレキソ印刷なんかの流れとは、また別の流れとしてでしょうか。

そう、オフセット印刷方式としてです。

−−ということは、ある程度、経済性とか、コスト的とか。

いや、そうじゃなくて、美粧化というようなことでしょう。これは出ると思います。だから四色、五色、六色と、多色のユニットの場合、まあ一色にしても、二色、三色にしても、それの精度の問題がありますよね、フィーダーの給紙精度の問題でもあるわけですが、これは、まだまだ開発されると思うんです。いまは、リード・エッジ・フィードの送り、段ボールシートの送りの誤差がまだまだ多いですからね。
キッカー方式から、そっちに変わっていますよ、もうアメリカもヨーロッパも、そっちの方に。

−−サクション式のですね。

サクションのリード・エッジ・フィードですね。欧米は、もうほとんど変っているんじゃないですか。これがリード・エッジ・フィードのカタログです。こういうやり方とか、色んなやり方があるわけです。

−−給紙精度の問題が大きなポイントですね。

そう、精度の問題です。精度と、それからスピードと、全部影響するわけです。主流的にはあんまり無いですけれど。これはウォードのカタログです。四〜五社がやっている程度ですけど、三菱も印刷機を売る場合は、向うの主流のものを買って、付けて売っているんです。
ところが、これがまた悲しいかな、精度が悪いんですよ、日本人としては。アメリカでは、そんなもので十分なんです。満足してくれるわけです。

−−日本人にはダメですか。

ええ、もう全然ダメです(笑)。だから、日本では売れないんです。ほとんどないです、リード・エッジ・フィードで印刷している機械は。将来は出来てくると思うんですがね。

−−日本が一枚噛まないと、良いものが出て来ないということですか。

出て来ないです。日本でも、一生懸命やってますけどね、私はもうパテントを取っているんです、絶対のやつを。取っているだけで、何もしておりませんけど(笑)。
それで、どうしてリード・エッジ・フィードが将来必要かというと、印刷機のスピードがどんどん速くなりました。それと紙の強度がライナー、中芯を含めてどんどん落ちて来ました。それでキッカー方式だと、段ボールのエッジを砕いてしまうわけです、エッジが凹んじゃうんです。

そうすると、その凹んだ分だけ誤差が出ちゃうんです。日本はまだ原紙が強いですから、その凹みが少ないですが、ヨーロッパやアメリカでは、だんだん、だんだん原紙がプアになっていますから、スピードを上げたり色んなことが出て来ますと、キッカーでは却ってダメなんです。キッカーのところで、段ボールを潰しちゃうから。コーンと叩いちゃうんですからね。それで、リード・エッジ・フィーダーを付けなければならなくなってきたわけです、ヨーロッパでも、どこでも。
だから三菱も、キッカーで輸出するわけにいかないけど、自分のところに無いから、よそのを買ってきて付けて売っている、というのが現状だと思いますね。

ただ将来、スピードが300枚から400枚になりというようにスピードが上がってくると、日本でも、やはり精度をいまのまま保ってやるなら、完璧なリード・エッジ・フィードの開発をやらないといけないと思います。現状だと、日本では買わないんですけれどね。いまの現状でテストすると、相当の誤差がリード・エッジ・フィードの場合出るんです。相当出るんですよ。

グルアには参戦しなかった

−−それが印刷機の場合ですね、それではグルアの方の問題は何でしょうか。

グルアはあると思いますよ、これは大いにあると思います。あれだけのスピードで走りながら、こう上か下に折って、貼るんですから。正確に折りたためばいいですけど、こう振れるフィッシュ・テールという問題がありますから、これはどうしても直さなければならない問題でしょう。

−−魚の尾びれみたいにシッポを振る問題は、どうしても避けられないことなんですか。

避けられないと思います。走りながら、こう折って行くわけですから。といって、こうなったものは、矯正しなければなりませんから、どっちにしてもこんなになっちゃうんです。
だから、シートの送りを、苦労してタイミング・ベルトで滑らないようにして送ってやるとか、色んなのが出ているんじゃないですか、色んなやつが(笑)。それはそれぞれのメーカーが、それだけ頭に来て、スピードが上がった場合、フィッシュテールになるから、どうしよう、こうしよう言ってやってるわけです。私は、なるべく首を突っ込まんようにしているんです(笑)。

−−あまり参戦しなかった分野ですか(笑)。

そう、あれは何となく、なんとなくでしょう。私の分野じゃないですよ。

−−機械メーカーさんたちにまかせてですか(笑)

そう(笑)、私はあまり興味ないけど、見ていると、各機械メーカーが知恵を働かせて、ウォードはウォード、どこはどこと、みんなやってるでしょう。タイミングベルトをこう走らせたり、まあ、カタログはいっぱい持ってますけど、やっちょる、やっちょる(笑)。

−−あまり食欲がわかないんですね。

あまりね(笑)。

−−それから、やはり高速で走りながらという点では同じですが、ロータリーダイカッタについてはどうでしょうか。

これはね、平盤の打抜機のように、止めて、打ち抜いて、また走らせてというのは、スピードに限界があります。だから、段ボールのコストから言ったら、ロータリー方式のものがだんだん、だんだん増えると思います。しかも、ドラムが大きくなると、精度が出ますから。要するに、フラット・ベッドだから精度が高いんです。丸になればなるほど歪むわけで、だから、極限まで大きくすれば、フラットになるわけです。径が大きいだけラクになります。

−−エネルギーの問題もありますか。

エネルギーは、回転だけのことですからね。止まったり、回したり、止まったり、回したりするわけじゃなく、グルグル、ただ回ってるだけですから、余り関係ないです。まあ、だから、なるだけ径の大きな方向に進んでいます。当然の流れで、径が大きくなれば、それだけ精度はよくなります。

−−径が大きくなれば、機械が大きくなるし、値段も高くなりますね。

機械は大きくなるし、値段も高くなる。だが、精度は良くなる、スピードも出せる。ただし、径が二倍になっても、平盤の輸入機のような値段にはならないです。あれは高過ぎますよ。だけど、あの機械は止まった、回した、止まった、回したということによって、チェーングリッパーでこう持って行きますから、線が伸びちゃうんです。

−−あれは、あれで、悩みもあるわけですね。

あるんです。チェーンの給油を怠ったら、一発でダメになります。精度が落ちちゃいますから。だから、ある限度以上は、スピードを上げられない。パッと引っぱって止めて、パッと打ち抜いて、その繰り返しですから、まあ110枚出るかどうか、120枚ぐらいが限度になると思うんですよ、間欠運転ですからね。

ですから、美粧ケースだ、なんだといった特殊なケースになると、フラットベッドで打ち抜くでしょうけど、それともう一つは、やはりラップラウンドとか、ケーサーの方でうるさい問題のあるものですね。