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得能正照自叙伝「発明街道」

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第4章 製紙開発(その2)

--ところで、新しく開発された板紙抄紙機「タイガー・フォーマー」のヘッドボックスは、1.0%以上の高濃度でも地合の良い紙が出来るということと、高濃度だから、1ユニット当たり最大200g/平方mの付着量が見込まれ、同時に抄紙速度も最高800m/分に達するというご説明でした。そこで、もっと素人分かりするように、例えば「ヘッドボックス」というのはどういうもので、1.0%の濃度とか、付着量200g、抄速800mということとの物理的な因果関係などもお話しいただきたいのです。まず、ヘッド・ボックスというのは。

水に溶け込んだ紙の繊維をすくい取るワイヤーがありますね。そのワイヤーの全巾に、同じように均一に紙繊維をのせるための装置が「ヘッドボックス」です。

--大きさはどれくらいのものですか。

巾は全巾ですね。高さはいろいろあるんです。紙の地合を良くするために、中に色んな装置を入れたりしているんですが、濃度(水と紙繊維の割合)を上げて行きますと、例えば、繊維というのは、水に溶かすと、プラスマイナスのイオンの働きで繊維同士がくっついて、ボテボテになってしまうんです。
それをくっつかないように、分散剤で分散させながら均一に繊維をワイヤーに乗せて行く装置なんです。
ですから、濃度が高ければ高いほど、繊維がくっつきやすくなるわけで、ということは、如何に分散させた状態のまま、高濃度で抄き取れるかが重要になってくるわけです。

--濃度というのは、普通、何パーセントぐらいのものでしょうか。

0.1%とか、0.2%とかいう数値です。ところが、タイガーフォーマーのヘッドボックスの場合は1.0%以上に濃度を上げているわけです。ということは、10倍ぐらいの濃度なんです。このサンプルは、昭和63年に、三菱の技術者と一緒にイギリスに行って、色んなヘッドボックスのやり方を変えて、いろいろ抄紙テストしたときの試し抄きの見本です。
色んなサンプルがあるわけですけど、これはみなパルプそのまんまです。これは濃度2%ですね、こういう数値のテストを、バンバンやったんです。

--相当の高濃度ですね。

そうです。全部2コンマ幾つでしょう。こういうテストをずっとやっていっているんです。ところが、途中で三菱がやめちゃったんです。ベロイトもテストをやりだしたんですが、ベロイトの連中も一緒で、どういうようにすると地合が良くなるか、これは、みんなヘッドボックスでの濃度のテストですが、その結果、良いやつはもの凄く良いのがあったんです。条件によってはですね。
結果は全部違うんですが、こういうようにボタボタになるのが多いんです。こういうテストは、どこの会社も、まだまだやっていると思います。これが一番の問題点になります。高濃度になればなるほど、厚みが出るんです。

--ということは、いま言われた1%というのは、上限ではないんですか。

上限じゃないです。こういうように、2%とか3%とかも実際にやっているわけですから、全く上限ではないです。ただですね、いまは1%以上の濃度でやっているところは、ほとんど無いんじゃないでしょうか。

--いまは、ですね。

いまは、無いと思いますけどね。

--それで、濃度が1%だから、1ユニットでの付着量が200g以上が見込まれるということですね。

濃度が高ければ、それだけ効率が良いから、ワン・ユニット当たりで沢山乗せられるんですね。だけど、地合を良くするためには、ヘッドボックスだけでは、どうしてもダメなんです。どうしても良くなりません。というのは、ヘッドボックスを出たところで、また、パルプ繊維同士がくっついてしまうんです。

--そうすると、ほかにも色んな工夫が必要なんですね。

私はいま、日本で一番良い紙というのを持っていますけどね、手抄きの和紙で。それは江戸時代のいわゆる懐紙ですけど、いまは貴金属とか、宝石を包む紙になっています。陽にかざしてみると、虹のように光るんです。
戦争直後に、これが最高の紙ですよと言われて、それを貰って、いまでも大事にとってあるんです。凄く上等な、超高級品です。
そういう和紙を抄くときもそうですけど、私が最初に行った井出製紙のちり紙工場でも、ちり紙を丸網で抄くでしょう、それでボタボタになるから、あの頃はみんなトロロアオイでしたか、それをエッジランナーで潰して、ドロドロになったやつを丸網のバット(原料槽)の中に入れて、紙を抄いていたんです。
私はその係りをやっていたんです。大きなコンクリートのタンクの中にフォルマリンで浸けてあって、それを何玉か持ってきて断裁機で切って、エッジランナーですり潰してどろどろにして、バットに入れると、もう繊維が分散してくっつかないんです。それできれいに抄けるんです。

--普通の丸網の場合は、濃度はどうなんですか。

大体、同じようなものです。全部、1%以内です。濃度を上げたら、もうボタボタになってしまいますから。
それで、さっきのヘッドボックスの話に戻りますと、このヘッドボックスで分散するようにいろいろ工夫して抄き取りますね。ところが、出た直後にバタバタと固まるんです。そうでしょう、例えばバケツの中に入れてかき回したら分散しているでしょう。だけど、かき回すのを止めたら、すぐ繊維がバババッと絡んで、集まってきます。それと同じで、ヘッドボックスを出たところで、すぐ絡んじゃうんです。それを、また分散させるために、「カーブド・シュー」というものを入れたわけです。

--もう一度、分散させるためですね。

そう、カーブド・シューを入れたために、タイガーフォーマー抄紙機では、濃度を高くできるようになったわけです。ヘッドボックスでなったわけではないんです。

--そういうことですか。ちょっと分かり掛けてきました。

その説明書にも、カーブド・シューでそうなったように書いてあるでしょう。

--ここの「カーブド・フォーミング・シュー」ですね。実は、この辺は良く意味が分からなかったんです。

ベロイトに行っても説明し、それでベロイトがなるほど、そうだと言うので、これですね、平成5年ですか、こういう風な説明図を書いて説明したんです。それで、エス・ケイエンジニアリングの名前で、こうやったらいいじゃないかと。これは平成元年の資料ですね、「得能役員の講義」と書いてあります。三菱が作ったものです。このカーブド・シューでもう一回分散させようと言っているんです。これは、要するに下から濡れた紙をパタパタ叩くんです、叩くと分散するでしょう。ここで、それぞれ叩いているんです、下から。

--それは物理的なものですか。

そう、物理的なことです。叩いているんです。このヘッドボックスから出てきた紙を、もう一度叩くんです。こんどは、薬品じゃなくて、物理的に叩いて、繊維の並びを整頓させて、地合を良くさせるんです。

--まだ濡れている紙だから、繊維が整列し直すわけですね。

そうです。だから濃度を上げても、地合の良い紙が出来るというわけです。これは非常に面白いアイディアだと思うんです。ただ、これを人に説明するのが、なかなか難しいんです。

--そうでしょうね、そういう物理現象を言葉で説明するのは、話す方も聞く方も、かなり辛抱強くないとダメでしょう(笑)。

これは三菱で講義したときに使った資料ですが、こういうようにボトボトしたやつが、パルスで叩くとこんな具合に綺麗になるんです。だから、ヘッドボックスをこう出ますね、出たあと、この先にカーブド・シューがあるんです。

--この図には書いてないんですか。

書いてないです。ヘッドボックスがこれ、カーブド・シューはずっと先のこれです。それでヘッドボックスで、ある程度、原料を綺麗に整列させているんですけど、巾方向にね、だけど濃度が高いからボトボトしていますので、このカーブド・シューで、下からパタパタ、パタパタ、というのは、この一つひとつがカーブになっていますから、極端にいうと、こういうように四角なやつがこうあってここは直線なんです。全部がなだらかな曲線になっているわけじゃないんです。だから、この直線と次の直線の間に当たったとき、段差があるのと同じで、パルスが出るわけです、叩かれるんです。
叩かれるというか、まあ、叩かれるのと同じ現象が起こるわけですね。それが、また平らになる、また次の直線に移るときに、物理的にショックが起きて、パルスが発生して、叩かれるということが次々に起きて、パタパタ下から叩いたのと同じ現象が起こるということです。

--下から何かで叩いているということでは無くて、物理的に、それと同じ現象を起こす装置がカーブド・シューということですね。

そうです。ここで次々にショックが起こって、原料をヨコに整然と並べるんです。こういう説明をして、三菱でテストをしたら、スゴイということになったんです。これが、そのときのパルスを測定するとか、こうなったとか、色んなデータをまとめたものです。
それで、こういうふうになると、パルスがどのくらいになるとか、脱水がどういうようになるかとか、全部計算しながらやっているわけです。これがパルスのデータです。これぐらい地合が変わるんです。

--ということは、薬品の働きは、ここでは何にもないんですね。

全くないんです。ヘッドボックスでは分散剤を使います。それを出た先の、このカーブド・シューでは、こんどはパルスで叩いて、繊維をもう一度整列させるんです。
ヘッドボックスは、濃度を決めて、繊維を平らにワイヤーに乗せる働きです。それをカーブド・シューでパタパタ叩いて、地合を直さないと、良い紙は出来ませんよということです。それで、濃度が高いから、厚みが出ますし、そのことをこの技術資料にも書いているんです。

--そうすると、このヘッドボックスは、ユニットとしては普通のタイプだと何個ぐらい、何ユニットぐらい必要なんですか。

3層の抄き合わせにするなら三つです。4層なら四つです。それで、一つのヘッドボックスに2種類の原料を乗せる場合は、このタイプですね、上と下と、原料が二種類乗りますから、それが開発のポイントです。

--凄いことをやっていらっしゃるんですね。

これは、終わったんです。それを基本に、もう少しコストの安いものにしようということでやっているわけです。面白いでしょう。

--分かってくると、すごく面白くなるんですが、分からないと(笑)。

そうなんです。この問題は、三菱はそう考えています。ベロイトもそう思っていますが、私は、それから更に、ここをガラッとこう変えたんです。基本は一緒ですけど。

--タイガーフォーマーでは、ですね。

そう、こっちは三菱方式のMHBです。タイガーフォーマーでは、ダブルワイヤーで、脱水性をもっと高くしたんです。というのは、マシンがこういう形式になったんです。
これがカーブド・シューで、ヘッドボックスはここにあります。同じですが、見た感じは全然違います。そして、ワイヤーの上に、こういうようにヘッドボックスをダーッと乗せて行きましたから、こういう形式ですね。だから、タイガーフォーマーでは随分変わったんです。

--ダブルワイヤーというのは、どれがダブルのワイヤーなんですか。

このワイヤーとこのワイヤーの二つです。それで、ここで遠心力で水をばーっとはじき出して、紙料をワイヤーの上に乗せるわけです。このワイヤーは、キャリングワイヤーで、この上に乗せるんです。その形式のやつをテストしたところが、1ユニットに200gぐらい楽に乗りますということを言っているわけです。このテスト結果に、196gと書いてありますね、200ぐらいはラクに乗せられるということなんです。
これは、いろんな人に説明するための資料です。タイガーフォーマーは二種類あるんです。ダブルワイヤーのと、ダブルでないのとです。遠心力で水を飛ばそうということで、毛布を使わずに、ワイヤーに変えたんです。
こういうのを英文で書いて、スマーフィットやなんかに随分説明してやりました。それで、これは小林さんでいまやっていますけど、小林さんでやっているのは、こういう2ワイヤーの方式なんです。
もうすぐ、1号機が入ると思いますよ。これが入って動き出したら、それを見て、世界中にどんどん出て行く可能性が非常に高いです。うまく行けばですね。まあ、うまく行かないことはあり得ないと思っています。それで、小林さんが、これで良いかといって送ってきたのが、これです。これはもう小林さんに全面的にお任せしたんです。うまく行くと思いますよ。コストが安いし、スピードは八〇〇mも出るし、それと場所をとりませんから。

--遠心力で振り落とすというのがスゴイですね。

そうです。スピードが上がれば上がるほど、水の切れが良くなるんです。だから、私はそういう面で、遠心力の問題は、段ボールでもそうですよと言うんです。丸いものには、みんな遠心力が働くんです。遠心力が働くから、段ロールから中芯が飛び出しちゃうんです。

--もう一つお訊ねしたいのは、クローズドシステムで、水を循環使用しますね。その場合に、水が、使っているうちに、だんだん水自体の疲労というんですか、要するにダメになっては来ないんですか。

薬品を使うからですよ。その薬品の処理をやらないと。

--回収したり、濾過したりですか。

そうです。

--それさえやっておけば、水そのものはH2Oで変わらないということですか。

そうです。都市でだって、循環使用しているわけでしょう。

--製紙工場の中で、クローズドシステムで完璧にやるとしたら、かなりコストが高く付くものなんですか。

いや、逆です。コストが高くつくのは、水をたくさん使う機械だからです。水が少なくて済む機械なら、コストは低いんです。

--ということは、こういうように濃度が高くていいという機械なら、水はそう使わないということですね。

そうです。

--要するに、10倍の濃度なら、水は10分の1しか使わないということですか。

そりゃあ、使わないですよ。資料をお見せしましょうか。
これが、水のフローになっているんです。これ、全部がぐるぐる回しで使っているんです。それでフレッシュウォーターというのは非常に少ないです。これは、もう計算してあるわけです。
それで、こういう風に、ホワイトウォーターから持っていく、これはこういうようにするというように、みんな書いているわけです。
これはタイガーフォーマーの図面ですけど、これに対して、どういう風に水を回流して行くかというのが、この図です。フレッシュウォーターというのは、この黄色い色で描いたところで、シャワーにちょっと使っているだけです。あとは全部、循環使用です。

--そうすると、一番最後に水と紙と半々の割合で出てきて、乾燥工程で、水は大気中に飛んで行きますね。その水は補給しなくちゃならないけれども、紙1tに水1tですか、そのほかは循環使用で利用できるということですか。

もちろん、循環使用で行くんですけれども、いまの技術の水準では、まだなかなか100%は循環できないですから、だからこういうシャワーだけで何t使うかということになると、これは2tぐらいでしょうか。このウルトラフォーマーのマシンは日産374tですが、水は300tしか使わないんです。紙1t当たり水1tしか使わないんです。
これが、水のフロー図と、使用量はこうですよという資料です。こういう計算を全部やっているわけです。4.55mのマシン巾の場合にです。

--そうすると、排水路に流す水というのはどうなんですか。

このマシンでは、ホンのちょっとしか無いです。それには、ヘッドボックスの濃度を上げないと、そういう方へ行かないんです。だから、こういうように、原料から何から全部集めて、計算してあるんです。原料と水のフロー図ですね。こういうことを、製紙会社の人も、なかなか、そこまでは頭を突っ込んで行かないですね。私は、待っているんです。

--何を待っているんですか。

私がね、待っているんです(笑)。待っていても、来なければ仕方ないんですが、こういう資料は全部あるわけです。だから、どうしたらいいかと訊いてくるのを待っているんです。どういう水をやって、どうやる、こうやる、全部これに基づいて書いてあります。

--得能さんは、こういう計算は何でなさるんですか。まさか電卓じゃないし(笑)。

あの計算機でですよ。あれでやればすぐです。こういう資料は全部、出来ているんです。

--用意は出来ているのに、みんなが訊いて来ないだけの話なんですね(笑)。

そう、訊いて来ないだけの話です。まあ、誰も訊いてくれなくても良いわけですけれども、タイガーフォーマーのね、これが全体の資料です。非常に簡単です。これは小林さんに、全部渡してあるんですよ。それから三菱にも。
ところが、ああこれは良い資料ですねと貰って行くでしょう、それが転勤になる、自分がそれをもって行くもんだから、あとから来た人には、これがないんです。それが日本の技術屋の体質ですよ。全然残らないんです、渡したって。

--自分だけのものにしちゃうんですか。

そう。そのまま持っていって、どこかへ行くでしょう、これがもう無いんです。だから、三年か何年か前に渡してあるじゃないかというと、いや私は見ていない。それで、またコピーを取って渡すでしょう、またどこかへ行くでしょう、それで、また無いんです。それがね、日本の機械メーカーのスタイルですよ。だから、テンポが遅いんです。なんぼやっても。これ全部渡してあるんです。

--そうですか。

だから、そういう面でね、困るんです。これは私の原図です。こういうのを小さくして、一覧のようにして、濃度がこのぐらいというように、全部計算して、渡してあるんです。
例えば、スクリーンの場合は、どういう濃度で、どうやれば良いんだとかですね。ヘッドボックスに送る前に、まずスクリーンを通ります。濃度が上がったら、スクリーンの目にみんな詰まっちゃうから、良いスクリーンがないと、濃度の高い原料は通ってくれないわけです。だから、スクリーンも勉強しなければならないんです。
世界で、どういうスクリーンが一番良いか、どういうスクリーンをここに付けたら良いかとか、ここに一台、ここに一台と、スクリーンがありますから、どういうのが良いか、そういうことが全部アタマに入っていませんと、全体の開発が出来ないんです。
ところが、技術屋というのは、一つだけしか知らないんです。ヘッドボックスの係はヘッドボックスしか知らない、スクリーン担当はスクリーンしか知らない、プレスしかやらないというような人がそれぞれ部門、部門で分かれていますから、全体が分かる人がいないんです。だから、そこに非常に大きな問題があるな、ということを言っているわけです。
コルゲータもそうです。シングルフェーサしか知らない、スプライサーしか知らない、カッターしか知らない、それじゃ全部をまとめてどういう風にやるのか。組織もそうですね。ヘッドボックスしか知らない、ウェットエンドは知っているけれど、プレスは知らない、それじゃスクリーンはどうなのと言ったら、担当が別ですからというようなことになる。
ですから、打ち合わせをすると、私一人に対して、色んな部署の人が10人ぐらい出て来るんです。それをとりまとめて、バッとやろうという人は、いまは、ほとんどいません。

--それだけ分業化しちゃったんですね。

それで、誰かがある程度の年限が経って、「お前が課長をやれ、部長をやれ」ということになったら、シングルフェーサしか知らないのが上に行くから、「課長、カッターがおかしいから、何とかしなけりゃならん」と言うと、「いや、オレはカッターは知らんから、ちょっとカッター係を呼んでくれ」と、カッター係がいう通りのことになる。その言うことが、良くたって、悪くたって、その通りになってしまうんです。上にいる者が知らないんだから。

--重症ですね。

いや、それが普通なんです。だから、こういう問題でも全部そうなんです。私はそれを百も承知していますから、まあ、そのうちに言って来るだろうと思っていますが(笑)。むかし、あなたと一緒にやった誰それは、いまは辞めて、どっか子会社に行ってますなんて言われて、ああ、そうかいなんて(笑)。もうダメです。全部そうです。
だから、私は、やりだして何10年とやって来て、色んなパートから何から、全部やったですから、その資料を全部置いといて、それで一つのものを考えるときには、あらゆる資料を出して、いろいろやっているわけです。これは、大変なことなんですよ。

--そうでしょうね。

だから今、新しいシングルフェーサをやり始めていますけれど、それはやってくれと言われるからやっているんではないんです。もっと素晴らしいシングルフェーサを作ろう、もっと素晴らしいプレスを作ろうと、それが私の夢なんです。明日も、小林さんとプレスの打ち合わせをするんですが、ENPなんてもう消し飛んじゃうようなプレスです。安くできます。

--そのENPというのは、一体どういうものなのか、もう少しお話しいただけませんか。

エクステンド・ニップ・プレスの略でENPと言うんですが、例えば二つのロールの間に挟んで圧を加えるプレスですと、タッチが線になりますね。ちょっとしか当たらないんです。それで、その間に毛布が来ているわけですから、そこにウェットな紙料が来て、ぎゅっと水を絞るわけです。

--要するに、昔の、手で絞る式の洗濯機の原理ですね。

そう(笑)。これを線ではなく、もっと巾を広く、なにしろスピードが速くてビュッと行くんですから、面に近いように長く、また余り強くおさえると、繊維の絡みがみんなバチャバチャになって、紙料が砕けてしまいますから、なるだけソフトに、軽くやりたいわけです。
また、軽くやりたいけれど、軽くやっていると、瞬時にパッと通ってしまうから、軽い圧力で、ただし巾広に、ぎゅっと、こう時間がかかるように圧さえて離すようにするわけです。

--線ではなく、面になるようにするわけですね。

そうです。それがENPなんです。これがベロイトでやり始めた最初のエクステンド・ニップ・プレスのカタログです。私が日本で初めのころ入れたもので、世界でも三台目でした。
こういうように幅広くプレスするんです。大体、線圧で30kgか40kgぐらいで、ソフトに長く、これで二〇〇mmぐらいですが、こういうように押さえているわけです。この丸いやつに対してこう押さえているんです。
ところが、これは回転できないから、もの凄いベルトをこう回して、ここで油をやって油で擦らしているわけです。それで、油圧でプレスするんです。普通の、こういう二つのプレスだと、砕けちゃうんです。
それで、いまやろうとしている新しいプレスは、これです。ここに書いてあるように、4tまで持ちます。

--4tというのはスゴイですね。

そう、これは1tまでしか要らないんですが、4tもつんです。こういう考え方をいま取っているわけです。こういうものを、それじゃ、シングルフェーサのプレスロールに使うと、ベルトプレスですね、あれが要らなくなるんです。ベルト無しで、これで全部いけちゃうことになります。

--そういうことですか。長いベルトで、こうプレスしているわけですから……。

そう、そしてちょっと操作を失敗すると、ベルトが撚ってダメになって、替えなければならなくなるんです。それで、いま、こういうシングルフェーサを考えているんです。

--これは簡単でいいですね。まるで、大きなタイヤそのものですね。

これ、こういうふうに凹むわけ。これがシングルフェーサですね。こっちが糊ロール。ボタンをぽんと押すと、これがカチャッと回って、こんどはAフルートからBフルート、BフルートからAフルートに切り替わるんです。自由に変わるんです。

--要するにタイヤを乗っければいいんですか。

そうです。

--私も、あんな長いベルトをぐるぐる回すのは、効率はどうかなあと思っていました。それに、プレスのパワーが出てこないし。だけど、あれはもともと、得能さんが考えたんでしょう。

そうです。いや、それはね、ここでいい話があるんです。ENPに基づいて私が三菱に講釈して、三菱がそうだと言って、やりだしたのが「ベルト方式」です。ところが私は、ENPをもうこっちの方に切り替えているわけです。
エクステンド・ニップ・プレスをこっちの方へもう持って行っているんです。この方がもっと良いし、安いし、簡単だしということになると、よし、それじゃ製紙のプレスにも使えるけれども、この前やったこととは逆に、こんどはシングルフェーサにもいけるじゃないかと、そう考えたんです。そう思いませんか。

--そうですか、タイヤを乗っければ、万事解決するんですか。

そういうことを、つまりシングルフェーサはこうやったのに、あとでプレスをこうやっておいて、シングルフェーサはまだ昔のままというのは、私の感覚として合わないんです。

--しかし、どうして、誰もそういうことに気がつかないんでしょうか。

本人がやったからです。ENPを真似て、シングルフェーサをこうやったわけです。それでENPが変わったら、こっちも変えようというのは、私にとっては当たり前のことなんです。それをやらなかったら、私はバカだということになります。違いますか、自分がやったんだから。
自分が、製紙のENPをもとにベルトプレスのシングルフェーサをやって、ENPは、もう何台も何台も私がやって、ENPは高いけど、まあモノは良いからどうしようもない、データは素晴らしいと、そう思っていましたが、今度の新しい抄紙機を作るときに、何億もするんじゃなく、何千万で済むようなプレスをということですね。それじゃ、こういう方式でやればいけるとなれば、それが良ければ、こんどは、段ボールもそうやろうということになるんです。すぐ、頭の切り替えが出来るんです。
私は、製紙も段ボールも一緒だと思っていますから、別々のモノじゃないんですよ。紙は紙ですから、同じなんです。

--ウェットか、乾いているかの違いだけですね。

そうです、当たり前の話です。だから、製紙も段ボールも全部、アタマに入っていないと、そういう問題にも対応できないんです。
板紙抄紙機というのは、昔は、キャレンダーのあとに、オン・マシンでみんなカッターが付いていて、オーダーに基づいて、オーダー寸法に切っていたんです。それで、オーダーが変わるごとに、キャレンダーのところで紙を切って、カッターの巾を変えて、またこうやっていたんです。
ところが、その後、みんなポープリールで巻き取って、オフカッターでダーッと切り出したわけです。それで、抄紙機はスピードが速くなり、生産が上がりました。
そうすると、コルゲータでも、一日のオーダーがもの凄く多いのを、全部、大判シートで出してきて、板紙抄紙機と同じように、別置きのスリッタースコアラで簡単にぽんぽん切っていった方がコルゲータの生産量はものすごく上がるし、コストダウンが出来る、ロスは出ない、スリッタースコアラをロット替えのたびに瞬時に寸法替えするようなことをしないで済む、ということになります。
昔の板紙、平判板紙の抄紙機では、みんなそうやっていたんです。いまは誰もそんなことはやっていません。ところが、段ボールの方は、板紙のそういう昔を知らない人ばかりだから、板紙で昔やっていたような、似たようなことを、いまでもやっているんです。
だから、私は、製紙を知らない段ボール屋さんは、そういう感覚しかないと言っているんです。私の場合は、製紙も、段ボールも一緒の感覚なんです。

--最大幅で切っておいて、ということですか。

いや、そうじゃなく、注文には色んな流れ寸法がありますね。流れ寸法の短いやつはダブル流れにするというようなことも入れて、カッターの方は、ダイレクトカットオフで瞬時に変わりますから、それによって流れ寸法を決めて切って、それを単体のスリッタースコアラにかけて行けば、別に何の問題も無いじゃないかと言っているんです。それをやらないんですよ。

--スリスコは別に考えたらいいということですね。それを、どうしても一貫ラインの中に入れておかなければならないと考えるのは、合理的じゃないということですか。

そう、ムリにそうやろうとするから、ロスが出ちゃうんです。それは、板紙の昔を知らないから、そういうことになるんです。板紙は、昔はオン・マシンで切っていたのを、いまのマシンはそんなこと、とても出来ないようになっているんです。そんなのは一台もないです。全部外して、オフ・マシンのカッターで切っているんです。それが原則ですから。
それで、コルゲータでは、どうしてその原則を見ないのかなあ、と思っているんです。