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「紙パルプ産業の持続可能な成長に向けて」 2007-05-15(第979号)

紙・板紙消費量上位10カ国及び近隣国の消費量・生産量(2005年)紙・板紙消費量上位10カ国及び近隣国の消費量・生産量(2005年)

紙パルプは日常生活、産業活動に欠かせない重要な物質であり、日本の紙パルプ産業は日本経済及び社会の発展と共に成長を遂げてきた。しかし最近は、国内市場の成熟化、世界市場との関係の深化、地球温暖化対策の一層の高まり、情報化の進展や少子高齢化社会への変化など、産業をめぐる環境は大きく変化している。こうした中で、経済産業省では業界関係者及び学識経験者からなる懇談会を開催し、これからの日本の紙パルプ産業が持続的に成長可能な経営を行うために必要なことは何かについて検討した。以下は「日本の紙・パルプ産業の持続可能な成長に向けて」と題する平成18年度の経済産業省委託調査報告の概要である。

▽紙パルプ産業の現状
<日本市場の現況>
わが国の紙パルプ産業は国内紙・板紙需要の堅調な伸びを背景に、これまで概ね安定的な発展を遂げてきた。近年、国内需要の伸びは頭打ちの傾向を示してきているものの、国内の紙・板紙消費量は世界第3位の規模であり、また、紙・板紙消費量上位10位までの国々の間でみた場合、人口一人当たり紙・板紙消費量は米国に次いで第2位の規模を誇っている。

わが国の紙・パルプ産業は、今日に至るまで、パルプ・紙一貫型工場の建設、高速・大型抄紙機の導入、省エネルギー技術の向上、古紙利用技術の向上、代理店・卸商の営業活動を通じて全国津々浦々に需要に応じて紙の供給を可能とすることなどにより、世界的にみても高品質の紙・板紙を製造し、流通させる高度な産業基盤を確立している。他方で、ユーザーニーズへの対応から、特に多品種・高品質の商品が取り扱われているとの声も聞かれる。

しかし近年、原油の高騰に加え、木材チップやパルプ、古紙の価格の高騰といった原燃料のコストが増加していることや、それに伴う商品への価格転嫁が出来た部分もあれば、思うように進まない部分もあることなどから、製紙メーカー、流通業者ともに収益性が低い状況にある。そのため、他の製造業に見られるような景気回復に伴う収益回復の傾向が、紙パルプ産業については見られない。

このような収益性の低さは、これまでわが国の紙パルプ産業が、価格よりもシェア確保をより重視してきたことも一因ではないかと考えられる。また、規模の経済の働く紙パルプ産業は市況が良いとシェア拡大に向けて生産量を増加させ、その結果、供給過剰とななって、市況が悪化してしまい、生産を引き締め、やがて市況が安定化、好況に向かうとまた生産を拡大という傾向があったと言える。

<国際展開の状況>
日本の紙パルプ産業における紙・板紙合計の輸出比率は5%未満で、内需の構造や、品種の違いなどから一概には比べられないものの、傾向としては欧州各国のみならず、アジア諸国に比べても低い水準にある。紙・板紙は地産地消の性格が強い素材として、日本の紙パルプ産業は、これまで国内需要への対応を第一義とし、輸出は国内需要に対する余剰分の調整弁的にしか行われてこなかった。また、輸入も、輸出より比率は高いものの6%程度に止まっている。さらに、日本企業による海外での事業活動(工場操業、大規模な流通網の構築など)の事例も少ない。

その一方で、原材料の確保に関し、植林事業については、国内より海外への展開が進んでおり、2005年度末で国内外の植林面積53万6千ヘクタールに対して、海外植林は約72%の38万6千ヘクタールを占めている。海外の植林地域はブラジル、オーストラリア、チリ、ニュージーランド、ベトナム、南アフリカ、エクアドル、中国、ラオスの9カ国である。

▽直面する課題

<国内需要の頭打ち>
国内の紙・板紙需要は2000年をピークに、その後はほぼ横ばいに状況にある。過去には、GDPと比例して増加してきた需要量だが、最近10年間の紙・板紙需要量の相関係数は約0・7と、GDPとの相関が弱くなってきている。こうした傾向から、GDP予測値からの推定という従来の方法ではなく、過去の傾向から将来の品種別1人当たり紙・板紙消費量を推定し、将来の予測人口を掛け合わせることで、2020年までの紙・板紙消費量を推定したところ、向こう10年程度は若干の増加傾向を示し、その後、人口減少の影響を受けて、減少傾向を示すと試算される。

懇談会においても、『GDPに比例して成長してきたわが国の紙・板紙需要は近年頭打ちとなってきており、将来にわたり、頭打ちないしマイナス成長となるのではないか』との感触が多数を占めている。このように、国内需要が頭打ちでかつ原燃料価格が高騰するという状況下において、いかに収益を確保するかが課題となっており、メーカー、流通ともに、大きな転機を迎えていると言える。
もちろん、メーカー、流通ともに、顧客ニーズを満たすとともに収益性を確保する、という大目的に変わりはないが、国内需要が頭打ちになって行く中で、製品価格と取扱量とをどう決めて行くかという点に関して、紙・板紙の品種によるが、メーカーの製造原価を賄えるように製品価格をより重視し、一方、流通は取扱量を重視するというように、見方がそれぞれ異なりうるということを認識した上で、メーカーと流通の間で、価格と量に関する検討が行われるべき時期に来ていると考えられる。

また、製紙メーカー、流通業者ともに、企業間連携や統合の動きが見られる。今般、企業結合ガイドラインが見直されたことも、こうした動きに影響を与えるとも考えられ、どのように対応するのかが各社の課題となってこよう。また、販売地域や品種で区分されていた流通チャンネルが、互いにオーバーラップするなどの構造変化にどう対応していくかも課題となろう。

<国際化の進展>
世界の紙・板紙市場は、大きく北米、欧州、アジアの3地域に分けることが出来る。このうち、北米、欧州の紙・板紙市場は生産量が消費量を上回る状況となっているが、アジア経済の発展に伴い、アジア地域の紙・板紙市場は、主に中国市場の急拡大に引っ張られ逆に消費量が生産量を上回っている状況にある。

中国市場の拡大は、日本の古紙価格高騰をもたらすなど、日本の紙パルプ産業にも影響しており、このまま中国をはじめとするアジア市場の拡大が続くとすれば、パルプ、木材チップなどの原材料や原油・石炭などの燃料の獲得競争が激化することも懸念される。他方、地理的に近いアジア市場の拡大を、日本の紙パルプ産業としてビジネスチャンスに結びつけられるかも国際化に係る課題だろう。
国際化という観点は、海外への進出だけではなく、同時に、海外から日本市場への参入も含まれる。欧米の紙パルプ産業は、大胆なリストラクチャリングを行い、競争力を高めており、また、中国をはじめとするアジアの紙パルプ産業も急激に供給力を増してきており、市況によっては日本市場への製品輸入が加速することもあろう。例えば、コピー用紙については、輸入比率が近年上昇し、既に約三割が輸入品である。

このような商品の海外からの参入だけではなく、海外では国境を越えた紙パルプ産業の提携・経営統合の事例が存在しており、海外企業からの日本企業への提携申し入れや、将来的にはM&A等の資本面での国際化の進展も想定されるところであり、近日予定されている三角合併の解禁などの制度変更もこうした動きを促進する要因となろう。

持続的成長が可能な経営に向けた対応策

(1)持続的な成長のための三つの視点
上記の、日本の紙パルプ産業が置かれている状況から、個々の企業は、以下の三つの視点に関して、どのように考え、いかに対処していくかを検討することが必要であろう。

1.第一には、『シェア重視に偏ることなく、収益重視を徹底し、事業のリストラクチャリングを図ることにより、総合的な競争力を強化すること』
2.第二には、『蓄積された経営資源を有効活用するため、国内のみでなく「収益の見込める範囲=域内」という国際的な視点で経営戦略を考えること』
3.第三には『地球温暖化対策、省エネルギー対策にいままで以上に取り組み、紙パルプ産業がこれらの分野でのリーダーシップを発揮するとともに、環境フレンドリーな産業であることを認知してもらうこと』。

とりわけ、第二の視点で述べている「域内」展開については、以下の視点を踏まえて、真剣に検討すべき時期に来ていると考えられる。

日本市場での活動は、日本の紙パルプ産業の競争力の源泉となる経営資源(人材、効率的生産や効率的流通の仕組みやノウハウ、省エネルギー対策や古紙のリサイクルシステム、海外産業植林等)の蓄積及びその水準の向上に寄与してきたものと考えられる。このような経営資源を競争力の源泉として、日本の紙パルプ産業が、需要が頭打ちの日本市場以外の、規模が大きいまたは成長率の高い海外市場に対しても積極的に進出すること、つまり、各企業本社の登記を行っている国の市場のみを対象とするのではなく、「域内」を対象に、経営戦略の策定、具体的な事業活動の展開を図っていくことが、今後の紙パルプ産業の持続可能な成長のために求められるのではないか。

すなわち、「日本の紙パルプ産業」という全体のくくりで考えたときには、そのイメージが、日本をホームグラウンドとするグローバル・インダストリーへと変化していくべき時なのではないか。もちろん、ここで言う「グローバル」とは必ずしも世界中ということを意味しない。アジア、北米、欧州といった各地域のうちから、上記の「域内」に対しては打って出ていくという意味である。また、「インダストリー」としたのも、企業規模にかかわらず業界各社全てがという意味ではなく、産業全体を一括りした場合の日本の紙パルプ産業のイメージとしてという観点からである。
なお、これまでのわが国の紙パルプ産業は、基本的にはほぼ全ての紙種を国内で生産してきたが、今後は紙が基礎的資材であることを配慮しつつも、一部は海外製品との棲み分けを図るようなことも検討すべきと考えられる。

(2)具体的な対応策
これら三つの視点に関して、具体的にとるべき対応は、その規模や扱う紙種をはじめ、様々な要因により「各社各様」「十社十色」であると考えられる。そのとき各社が、「持続的成長が可能な活動を続ける」という観点から、それぞれの経営の考えに応じてとりうる選択肢は、国内対策、国際化対策、環境対策それぞれにおいて、以下の各項目から、各企業において必要なものを取り上げ、組み合わせていく、ということになるのではないだろうか。
もちろん、以下の各項目にない事項を新たに追加することも、個々の企業の判断においてあり得よう。また、業界団体において行うなど、業界全体として取り組むべき事項もあると考えられる。

1.競争力強化に係る対策

▽スクラップ&ビルド=一工場、一設備レベルでの生産効率を徹底的に改善するため設備のスクラップ&ビルドを推進する。その際には、国内外の需要動向を把握し、雇用の確保や地域経済への影響等を検討しながら適切なタイミングでS&Bが行われるようにする。

▽流通機能の強化=ユーザーの規模と数に応じ、商品の価格及び品質を責任をもって維持する機能や、物や情報(ユーザーニーズ等)の流れを円滑・効率的に行う機能、与信機能、さらには多品種小ロット多頻度の配送を可能とする物流機能の高度化等について検討する。メーカーおよび流通、加えて顧客業界との連携したEDI環境の可能性を業界内で検討することが必要であろうし、場合によっては、効率化や付加価値の向上などのためのメーカー、代理店、卸商の垂直統合もあり得る。

▽共同化・連携の検討=原料調達、生産、流通(共同倉庫、共同受配など)、研究開発などを企業間で共同して行う。必要に応じ国内外でのM&Aも検討する。

▽独自の製品戦略=生産効率のみに依拠するのではなく、品質や特殊性に着目し強みのある製品分野に特化し、その分野を深耕することによって、他社製品と品質・価格面で差別化する戦略が考えられる。一方で、特定の製品への過度の集中を避け、多様な品種を取り揃え得る柔軟性を持つことによって、リスクの分散や競争優位の確立を図る戦略もありうる。

▽顧客指向の徹底=顧客満足度の観点から、代理店・卸商、商社、メーカーという各チャンネルが自らの機能の強みを踏まえ、それぞれの機能強化を図る。顧客がどのように製品を利用しているか、という市場における利用形態に応じた販売・配送チャンネルを作る。製品によっては、メーカー自らユーザーニーズを的確に把握し、製品開発によってその具現化に努める。

▽価格体系の明確化=より明快な価格体系の構築を行うため、販売価格の構成要因を明示する。取引価格は数量、決済等の取引条件別によるものとし、適正なる収益の確保につなげる。なお、この点は、価格表が整備されている海外の取引実態などを参考にしながら、取引の透明化を図ることの必要性を検討する。

▽原燃料の確保=長期契約や回収網の整備などを通じ古紙や転換燃料を安定的に確保する。非化石エネルギーである再生可能エネルギーの利用量を増やす。国内林からの間伐材や、製材残材、あるいは里山材の有効活用を図る。

2.国際化に係る対策

▽明確な目標設定=単なる国内需給の調整弁としてとらえられていた輸出や海外での事業活動について、国際化に積極的に取り組む企業は、輸出比率または海外事業比率を、例えば10%〜30%へ飛躍的に高めるなどといった明確な意思表明が望まれる。

▽企業戦略に応じた手段の選択=国際化の手段としては、国内生産・輸出といった形態に限らず、海外企業と提携して、現地生産・流通を行うことも考えられるし、企業体力によっては、現地企業の買収、現地法人の設立によって海外生産・流通拠点を確立することもあり得る。流通においてもIT化の進展等を踏まえ、従来の商圏を見直し、海外展開を図る。

▽人材育成・組織整備=グローバル・インダストリーになるためには、海外市場に精通した人材、海外事業の遂行能力とリスク対処能力に優れた人材が必要である。海外展開を積極的に行うことを通じて、国際化に対応した組織の整備・人材育成が行われるという能力蓄積の側面にも注目すべきである。