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海外の製紙、段ボール動向

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中国の製紙原料予測と古紙 2009-11-15(第1042号)

中国古紙1中国古紙1

中国古紙2中国古紙2

以下は、財団法人古紙再生センター会報9月号に掲載された大江礼三郎氏(東京農工大名誉教授)の研究レポートからの要約である。

「平成20年11月から中国への古紙輸出が激減したが、翌21年2月、突如回復して4月には前年の月平均24万4千tの2倍、50万8千tになった。未曾有の経済変動下にあるとはいえ、このような大きなブレは例が少ないのではなかろうか。その根には中国の強い古紙需要がある。これからは中国が世界経済を牽引するといわれ、製紙産業でも2008年、中国は生産量で米国を抜いたと報じられている。しかし、この傾向が続けば世界の製紙原料事情、古紙需要に大きな影響があることは間違いあるまい」。

▽まえがき
平成20年9月、北京オリンピックとパラリンピックの間を縫って中国の製紙原料事情の調査に出掛けた。その時の関係資料が製紙連合会海外産業植林センターの報告書にまとめられた。それには中国製紙産業の全体像から原料事情、環境問題、紙・板紙の需要予測までがまとめられている。そして21年5月、上記資料作成者の1人である中国林業科学研究院・資源信息研究所元所長の易浩若氏が中国の森林資源と木材需給の展望について講演された。これらの資料や「2008中国造紙年鑑」を基に、中国の製紙原料事情、特に古紙の動きを考えて見たい。

▽中国製紙産業
中国造紙協会資料によると2008年の紙・板紙生産量は7,980万tで米国の7,949万tを抜いて世界首位の座に着いた。消費量は7,935万tで2007年の米国の8,979万tに及ばないが、いずれこれも追い越すことになろう。それに対して、わが国の2008年の生産量は3,063万t、消費量は3,030万tと、依然世界3位にあるものの低迷の度合いは著しい。

わが国の消費量は1995年に、生産量は2001年に中国に抜かれた。6年のズレは、2005年まで中国の紙・板紙の輸入が消費量の10%を超えていたからである。1970〜90年代の頃は両国の生産の伸び率は似たようなものであったが、90年代に入ってわが国の生産は3,000万t近辺で停滞するが、中国は90年〜08年は年率10.2%に加速し、08年は7,980万tとなっている。

なお、ここで中国の統計資料を読む心得について一言申し上げたい。それは永年中国に駐在された阿南大使が講演会で話されたことだが、中国は大国であるから「群盲恐竜を撫でる」ようなもので、個々の事例から全体を知ることは大変に難しく、かといって公表される政府の統計資料には疑問があるとのことである。例えば前記文献の報告書に中国製紙産業の総生産額が出ているが、その脚注に年間500万元以上の企業の売上の総計を1.40倍したものを国全体の紙・板紙売上額とするとなっている。従業員数の場合は1.43倍する。つまり公表されている全国統計の数値は造紙協会(わが国の製紙連合会に相当)が把握している比較的大きな企業の統計値に一定係数を乗じて零細企業をも含めた全国統計値としているらしい。近年、年産数十万tの大型設備が稼働すると、その生産額を自動的に1.4倍したものが全国の総売上額となる。公害問題で零細工場数が減少傾向にあるから1.4の係数は年々小さくなる筈だが、1998年から2007年まで変えられていない。もっとも、これは生産額で、生産量のことではないが。

また統計資料に出てくる古紙量は、製紙工場で使われた古紙パルプ(廃紙漿)相当量を1.25倍したものを入荷古紙量としているらしい。少なくとも上記報告書ではそう読み取れる。実はパルプ材消費量も、パルプの木材原単位を一律に4.5立方mとしてパルプ生産高から逆算されているようだ。確かに大きな国であるから、個別企業の個々の原料事情を緻密に収録することは不可能であろうから、このように係数を使って国の統計値が作成されているらしい。統計値を読む時、このことを決して忘れてはならない。ただ国の監督下にある造紙協会が把握している製紙企業関係統計や輸入古紙、輸入パルプなど通関資料によるものは実数であろう。

とにかく現実に巨大な製紙産業が活動しているわけで、各企業はそれぞれに利益を確保するため、緻密な努力をしている筈である。ただ恐竜のように巨大な社会であるから、国全体が精密機械のようなわが国のように1kg、1立方mもおろそかにしない統計的手法で物事がまとめられていないまでのことであろう。中国の統計を見る時、あるいは個々の事例にぶち当たるとき、その背後の流れを読み取って全体を見据えることが必要であろう。

▽古紙が非木材と置き替わった
1990年から2008年までの製紙原料の移り変わりを見ると、この18年間に木材パルプの比率は15%から22%になり、古紙パルプは28%から60%と大きく上昇、非木材パルプは57%から18%に著減した。量としては国産パルプ、国内古紙とも増加はしているが、2000年頃からの輸入古紙の急増が目立つ。そのため輸入製紙繊維原料、つまり輸入木材パルプと輸入古紙の比率が6%から39%となった。勿論、原料消費量全体が5倍強になっているのであるから非木材パルプも量としては1.6倍になっているのだが、2005年からほぼ同一水準にあるので、この18年間に非木材パルプは古紙パルプで置き換えられたと読み取れる。

さて、その理由だが、10数年前、中国の製紙産業には「3小1大」の問題点があるといわれた。3小とは(1)木材パルプの比率が少ない、(2)企業規模が小さい、(3)生産規模が小さい。1大とは環境問題である。文字の国、紙発祥の国であるから二千年来、全国に膨大な数の紙漉き場があり紙の需要を賄っていた。紙は元始、麻・楮・竹・わらなどの非木材繊維で作られた。造紙が普及していたのが仇になったのであろう。19世紀以降の木材パルプと抄紙機による近代的製紙産業では遅れをとり、3小の問題点として残ってきた。

改革解放後、とくに社会主義的市場経済で大きく需要が伸びると、増産する製紙工場からの廃液、排水の汚染問題が激しくなった。これが1大である。そのため01年から05年に公害対策の出来ない1,500工場が閉鎖された。さらに07年6月に国務院が公布した方針では、2010年までに年産3.44万t以下の不適格な木材パルプ設備、年産1.7万t以下の化学パルプ設備、1万t以下の古紙処理設備など合計650万t相当の原料調製施設が淘汰されることになった。

ここで小型の古紙処理設備も対象にされたのは、排水処理、廃棄物処理がおろそかになるのが懸念されたのであろう。現在でも亜麻・麻・綿などの非木材繊維は高級な製紙原料であるが、大量生産の製紙原料とする一般紙の非木材パルプ工場や小型の木材パルプ工場がなぜ規制対象になるのか、その理由を説明したい。環境論者はよく木材を伐らないで非木材植物で紙を作れと主張するが、現在、おそらく将来も非木材のパルプ製造時の環境対策は非常に難しい。わら・バガス・あし・竹などの非木材繊維、特に農産廃物は古くから利用されてきているが、家内工業的な規模ならまだしも、近代的な大型のパルプ製造で使われる木材に比べると、これらの原料は植物組織的に欠点がある。

一方、古紙特に輸入古紙は木材パルプが原料で、繊維の離解・脱水性、紙質、排水対策、買付時期・輸送効率・貯蔵面積など非木材繊維に比べ多くの利点がある。そこで2000年頃から輸入古紙の大規模利用が始まった。この10年、非木材繊維依存から脱却して中国の製紙産業が大きく成長できたのは、古紙利用の賜物である。

【古紙原料、輸入依存続く】

▽2020年の中国の古紙需要
紙・板紙の消費量とGDPとの間によい相関関係があることはよく知られている。わが国でも1980年〜90年頃、両者間の相関係数はほぼ100%に近かったが、最近ではその関係は複雑になっている。中国の場合、1978年から2007年まで紙・板紙消費量とGDPの年間伸び率は両者全く同じ平均9.3%で推移してきた。公表されているGDPと紙・板紙消費量から検算してみると、その通りである。この伸び率で計算して2020年の需要を予測すると2億tを超す規模になる。しかし、年率9.3%で2020年まで伸びると予測した研究者でも、木材・非木材・古紙・輸入パルプなどの製紙原料供給事情を考慮すると、2億tを越す需要予測は大き過ぎると考えたのだろう。紙・板紙の原料供給事情から見た予測として1億8,000万t程度の値が出されている。

その代表例として表4、5、6を挙げた。なお紙・板紙生産量と原料パルプ量とは同一ではないから、いわゆる原単位を上記の例では1.03としている。表4と5は楊教授の予測であるが、1978年から2006年の紙・板紙需要の伸び率から、その延長として2020年の需要を予測すると2億3,327万tとなり、これに対応する製紙原料は2億4,000万tと算定した。ところが現実には環境問題から非木材パルプの利用には制約があるし、国産木材パルプの増産も原木事情などを考慮して下方修正し、全体として製紙原料供給は1億8,500万tに止まると予測した。この2つの場合の製紙原料の内容、つまり国産および輸入木材パルプ、国内回収および輸入古紙、非木材パルプの設定値を比べると、将来の製紙原料事情にどのような見解がもたれたのか推測できる。

表4と5に共通しているのは2020年の非木材パルプの比率を3%としていることで、2008年の18%から激減させている。もっとも原料全体の量が大きく増加するのであるから、現在の4〜5割程度の量は維持されることになる。古紙パルプの比率は表4では50%、表5では65%となっている。前者は国内古紙回収が進んで輸入依存は1割と低いが、後者では4割とほぼ現在並みにしている。古紙パルプに1.25を掛けたものが古紙量であるから、2020年の輸入古紙量は1,500万tで、2007年の実績2,256万tより少ないが、これは古紙輸入が急増して間もない頃に、それ以前のデータを用いて予測作業が行われたためであろう。表5の2020年の古紙輸入量は6,012万tで2007年の2.7倍である。

楊教授が用いた算出係数を使って2020年の国内古紙回収率を求めてみると表4は58%、表5は50%である。2008年の中国の国内古紙回収率は統計資料から39%と推定できるが、現実には都市では回収はかなりよく行われていると観察されている。都市では面積当たりの紙・板紙古紙発生量が多いから回収も効率的に行われるが、広大な国であるから、国全体としての古紙回収率はわが国や欧州のように高くならないのではなかろうか。

となると表5の古紙回収率50%の方が実態に近いかもしれない。2007年の古紙の輸入量は総計2,256万tで、内訳は米国が38%、ついで日本が14%、香港11%、英国9%、オランダ7%等々である。2007年の古紙輸入量が2020年に2.7倍の6,000万tになることは、年率7.9%の伸びである。わが国の2009年1〜5月の平均古紙回収率は紙・板紙出荷の落ち込みの影響もあろうが82%と高い水準にある。これは特例としても、米国・日本など先進国の紙・板紙消費量は低迷しているから、回収率は上がっても古紙の輸出増はそれほど期待出来ないのではなかろうか。

となると、先行きなんとしても中国国内の回収率を高めなければなるまい。表4のシナリオのように2020年に中国国内の古紙回収率が58%となり、輸入古紙が現在を下回る1,500万tで済めば、古紙国際貿易による影響はないことになるが、多分、現実は表4と表5の2つのシナリオの中間になるのだろう。

▽パルプ材造林かパルプ輸入か
2007年に「国民経済及び社会発展の第11次5カ年計画要綱」「全国林紙一体プロジェクト建設十五及び2010年計画」に基づいて国家林業局から出された計画を筆者が数値の単位を統一して作成した製紙原料予測が表6である。2007年から2020年までの紙・板紙需要(正しくは原料パルプ)の年伸び率を8%として、2020年の繊維原料消費量を1億8,187万tとしている。本計画は製紙用林の造成によって製紙産業と林業を結びつける林紙一体化促進政策に基づき森林資源量、造林計画を見通して作成されていた点で需要、あるいは原料供給面の表4、表5の予測とはスタンスを異にしている。そして特徴的なことは木材パルプ・非木材パルプ・古紙パルプの比率を26%、18%、56%と固定して計算していることで、この比率は2007年の「製紙産業発展政策」に示された2010年の目標によるものである。

中国では年間400万ヘクタールの造林が行われているといわれ、製紙用林の造成についても2010年までに建設予定の木材パルプ・製紙33工場、合計生産能力1,529万tに対して合計479万ヘクタールの造林を義務付けている。しかし、表6によれば2020年の国産木材パルプは1,655万t、輸入パルプはその1.9倍の3,074万tと見込んでいる。国産パルプの比率を表4、5の予測よりかなり低く見積っていることは森林事情を決して楽観的に考えていないことを意味している。

国際市場からパルプを調達することについては、市販パルプは北欧・北米では年率1.3%増、南米・南アなどは年率7.9%増であるから2020年には併せて6,406万tの供給増が望めるのに対して、国際的な需要は年率3.2%増加で5,931万tであるので不安はないとしている。しかし、林紙一体政策実施機関による予測でも、国産パルプ依存がこの程度に留まるとしていることは印象的である。

さらに付加すれば、表6の2020年の予測であるが、非木材パルプの比率を18%としているが、環境問題を考慮すると現在の2.5倍量を生産・利用することになり、非現実的であろう。そして製紙原料中の古紙パルプの比率を56%としているが、これ自体は国際的に高い水準ではないが、その4割、4,092万tを輸入に依存するとなっている。これは古紙に換算すると5,115万tで2007年の輸入量の2.26倍である。2007年の世界貿易における古紙総輸出量4,915万tからすればかなりな量である。

▽むすび
木材繊維利用促進のための林業政策として2003年12月に林紙一体化政策が公布され、それにはパルプ材の確保の諸施策とともに古紙回収・利用の促進、回収システムの確立が謳われた。また2008年6月には林権制度改革が公布され集団林業経営、請負経営権、林木所有権の認知など林木生産の向上の施策が取り上げられるなど製紙用木材の確保が進められている。しかし、前述のように林紙一体政策を実施している政府機関によっても、高度成長する中国の製紙産業の2020年における製紙繊維原料の海外依存度は39%になると予測されている。

さらに製紙産業発展政策として07年10月に製紙産業の配置が勧告されているが、それには製紙産業の立地について、北から南へ、すなわち東北地区、西北地区における製紙産業は抑制され、長江以南地区、東南沿海地区が林紙一体政策重点地区とされ、長江・珠江デルタ地区、黄淮海地区は購入パルプ、古紙を利用することが推奨されている。

またそれに関連して中国製紙産業の行くべき道として「引進来」、つまり内にはクリーン生産の水準を高め、循環型経済の発展・促進に努力し、外には「走出去」、つまり海外において森林資源の確保、造林、工場建設を進めるべきであるとしている。
以上の事柄を考え合わせると、原料対策、産業配置などから長江・珠江デルタ地区、黄淮海地区において古紙、輸入パルプによる紙・板紙生産が大きく成長を続けることになるものと予想される。いずれにせよ高度成長する中国製紙産業において原料繊維として輸入古紙に大きな役割が課せられていることは信じるに難くない。